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Three Peaks トレ・チーメ3峰

ドイツ・イタリア映画 (2017)

ドイツ製作だが、北イタリアを舞台にした映画。登場人物は3人だけ。3人の共通語はドイツ語だが、8歳のトリスタンは父の母国語の英語を愛し、母は、トリスタンと話す時は意図的に母国語のフランス語を使う。トライリンガルな映画だ。トリスタンの母を演じるベレニス・ベジョは、撮影時40歳。『アーティスト』(2011)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、『ある過去の行方』(2013)でカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞した実力派。アルゼンチン出身で、3歳の時からフランスで暮らしている。シングルマザーの母の恋人を演じるアレクサンダー・フェーリングは、撮影時35歳。『ゲーテの恋』(2011)でジュピター賞のベスト・ドイツ男優、『顔のないヒトラーたち』(2014)でバイエルン映画賞のベスト男優、『ちいさな独裁者』(2017)でCinEuphoria賞のベスト助演男優、『ブレイム・ゲーム』(2019)でドイツ映画賞のベスト助演男優を受賞した実力派。この2人が組んだだけに、演技は見事だが、IMDbの点数が現時点で6.0と高くないのは、その異色の脚本の後味の悪さによるものであろう。シングルマザーと一人息子と継父という組み合わせの映画は多いが、そのほとんどすべては、継父による息子虐めが映画の主題となっている。ここでは、逆で、自分の父が好きなトリスタンは、継父になる予定のアーロンを何とか妨害しようと “陰湿な虐め” に走る。それを8歳の子供が行うので、観ていてあまりいい気はしない。

2年前、母の離婚で父を失ったトリスタンは、今でも父のことが大好き。しかし、この2年間、嫌な男アーロンが母にまとわりついて離れず、辛い思いをしてきた。夏のバカンスで、アーロンがドロミテ・アルプスに持っている山小屋へ連れて行かれたトリスタンは、母から、弟ができると聞いてショックを受ける。気のいいアーロンは、トリスタンのことを自分の息子のように思っていて、トリスタンも、母の手前、表面的には受け入れているような振りをしているが、心の底では何とか邪魔をしようと、できることをいろいろと試してみる。そして、最大のチャンスは、映画の題名にもなっているトレ・チーメの “3峰” に連れられて行った時に到来した。トリスタンは、アーロンの登山靴の紐を、アーロンが疲れて寝ている隙に抜き取って捨て、それが原因でアーロンは脚を骨折する。そして、トリスタンが勝手な行動をとって凍った池に落ちた時、這いずりながら助けてくれたアーロンが、母と別れる気がないと知ると、平気で見捨てる…

トリスタン役のアリアン・モンゴメリー(Arian Montgomery)は、2008年3月10日生まれ。撮影時8歳。ドイツ人で、流ちょうに英語が話せるバイリンガル。母がフランス語で話しかけるのに英語でしか答えないのは、フランス語を母国語のように話せないからであろう。2本のTV映画に端役で出た後の3本目で重要な役が回ってきたが、観客の印象は悪いので損な巡り合わせだ。

あらすじ

映画は、プールで楽しそうに遊ぶ親子らしき3人の情景から始まる〔プールから始まることには意味がある〕。ともに30代の男女と、8歳のトリスタンだ。男性はトリスタンに、顔を水に潜らせても怖くないことを教える(1枚目の写真)。こうして水に慣れさせた後で、泳ぎ方も教える。この時、2人が使っているのはドイツ語。トリスタンは、男性に抱き上げられ、如何にも嬉しそうだ(2枚目の写真)。ここで、トリスタンの母が画面に加わる。母がトリスタンに話しかける時に使うのはフランス語(赤茶色)。息子に近づいて行き、「愛してるわ」と言うが、トリスタンは敢えて英語(青色)で、「どのくらい?」と訊く。「フランス語を使って」。「やだ。どのくらい?」。母がトリスタンにキスすると、彼は男の方に泳いで行く。そのあと、3人はプールの脇の芝生〔レマン湖の岸辺〕で休む。トリスタンがビーチボールを蹴って遊んでいる間の母と男の会話は、すべてドイツ語。「なぜ、私にフランス語で話さなくなったのかしら?」。「パリに戻った方がいいかもな」。「そうなの、建築家さん?」。ここで、母は、「来てちょうだいトリスタン、証人(témoin)になって欲しいの」と呼ぶ。トリスタンは、ビーチボールを男に向かって蹴りつける(3枚目の写真)。ただ、その後の具体的な会話はカットされている。ただし、トリスタンが急に不機嫌になるので、“証人” となった話の内容は、彼の気にそぐわないものだったらしい。

3人は、男(アーロン)の運転でイタリア北部のドロミテに行く。そして、道路の終点で山小屋での生活用の服装に着替える(1枚目の写真)。森の中を抜けると、急に視界が開け、正面に山小屋が見える。トリスタンは1人で小屋まで走って行く(2枚目の写真、矢印)。3人は、小屋の脇に設けられた木のテラスまで行き、母子にとっては初めてのドロミテ・アルプスを眺める(3枚目の写真)。すると、トリスタンのナップサックの中から着信音が聞こえる。母は、中から携帯を出しながら、「それ、あなたの携帯なの? いつから持ってるの?」と訊くが、トリスタンは答えずに携帯を受け取ると離れて行く。「もしもし」「ううん、パパ、着いたとこ〔携帯は父からもらった〕泳ぎ方、習ったよ」「ううん、プールに先生がいたんだ〔アーロンに教えてもらったとは言いたくない→アーロンの存在を “許そうとしない” 気持ちの現われ〕。その日の午後は、小屋での生活ができるように準備することに費やされた〔働いているのは、もっぱらアーロン〕

翌日、3人は、近くの森の道を散歩している。トリスタンが松ぼっくりをむしり取っていると、アーロンの言葉の後に、母が、「そんなに簡単じゃないわ」と言うのが聞こえる。トリスタンは松笠をいっぱい手にすると、「何が簡単じゃないの?」と尋ねる。「パリに行こうと思ってるの」。「パパはどうなるの?」。アーロンは、「訪ねてこれるさ」と慰める〔トリスタンの父がどこにいるのかは不明。ただ、電話での会話は英語だったので、イギリスだろう〕。母は、「家が決まったら、パパに話しましょ」と付け加える。小屋に戻り、料理を作っているアーロンの横で、トリスタンが野菜を刻んで遊んでいると、また携帯が鳴り出す。父との断片的な会話。「もしもし」「ちっちゃなベッド」。そして 笑って「ホント?」と言うが、後は不明。すぐに食事のシーンとなる。トリスタンは、先ほどアーロンが刻んでいた野菜を食べながら、母に、「何が欲しかったの?」と訊く。「内緒」。「僕に関係ある?」。「ええ。あの人にもね」。自分とアーロンの両方が対象になったことで、トリスタンは機嫌を損ね(2枚目の写真)、食事を中断して ついと席を立つ。母は、息子の様子がおかしいので、すぐに後を追う。アーロンが食事の後片付けをしている場所からは、母に抱かれたトリスタンの姿が見える。「弟ができたら嬉しくないの?」「泣かないで」。しばらくして、トリスタンの声が聞こえる。「弟なんか要らない」。「どうして?」。母はさらに、「欲しいと言ってたじゃないの。どうしてそんなに悲しむのか分からないわ。いったいどうしたの?」と言うが、返事はない。その夜、2人が屋根裏のベッドに入ろうとすると、本立てを挟んで隣に置いたマットレスではなく、2人のマットレスの上にトリスタンが寝ている。そこで、2人は敷布ごとトリスタンを持ち上げると、起こさないように本来のマットレスの上に戻す。

翌朝、一番遅く目が覚めたアーロンは、近くに誰もいないので、トリスタンが来にくくなるよう、自分たちのマットレスを離れた場所に敷き直し、屋根裏の模様替えをする。次のシーンでは、アーロンがトリスタンにオルガンの弾き方を教えている〔トリスタンに受け入れてもらおうとする努力の一環だが、連れ子に無関心もしくは酷な継父は映画によく登場するが、こんなに優しい男性も珍しい〕。そして、アーロンはトリスタンを連れて小屋の裏手の丘を登って行く。荷物は全部背負い、トリスタンには何も持たせない。トリスタンが、落ちていた牛の糞を見て、「巨人がしたの?」の訊いても、「巨人は、いつ起きるの?」と訊いても、親切に応対する。次の場面では、2人が歩いている場所は、草原ではなく、ごつごつした岩が散在する高地に変わり、所々に雪も残り、岩場はアーロンがトリスタンを背負って登る。そして、登り切ったところに聳えていたのがドロミテで一番有名なトレ・チーメ。私は、ドロミテが好きで、8月に1回、紅葉が美しい10月に2回トレッキングに行ったことがある。1枚目の写真は、2回目の時に撮影したもの〔10月10日なので新雪が積もっている〕。映画の舞台となった場所が一番よく分かるので載せた。2枚目の写真と比べれば、2人がいた場所がよく分かる。アーロンは、「僕のお気に入りの “3峰” だ」と教える。「山が3つある。パパ、ママ、子供、1、2、3だ」(3枚目の写真)。大きな岩の上に座ったトリスタンは、「山登りの仲間は、すごく深い水での泳ぎ方 教えてくれる?」と訊く(4枚目の写真)。「自分のベッドで1人で寝られるようになったらな」。「できるかな?」。「できるとも。難しくなんかないから」。

そのあと、アーロンは、トリスタンを楽しませてやろうと、目隠しをして立たせ、少し離れた所まで行くと、「トリスタン、僕はどこにいる!?」と、やまびこが聞こえるくらい大声で叫ぶ(1枚目の写真、2つの矢印は2人の位置)。この時は失敗。あと2回やってみるが、成功は1回で、トリスタンはあまり楽しそうではない。次の場面では、岩にもたれて眠ってしまったアーロンを、岩の上で横になったトリスタンがじっと見つめる。そして、「パパ?」と声をかける〔映画の後の展開から、決して本気で言ったのではない。“パパ” と呼んだら、敵はどう出るかを見ようとしたのか、単に からかったのか?〕。アーロンは、寝ていなかったのか、すぐに置き、トリスタンの顔を見上げて「やあ」と答える。それを聞いて、トリスタンがにっこりし〔「ひっかかったぞ」くらいの意味〕、それにつられてアーロンも にっこりするので、観客は2人の心が通い合ったのかと勘違いさせられてしまう(2枚目の写真)。意地悪なミスディレクションは、次の場面でも。2人は手のひらを重ね合わせ、大きさの違いを見る。「ぼくたちの手、同じ大きさだね」〔倍は違う〕。「その通り」。そして、手相を見合う〔占いという意味ではなく、線の本数と形を比べるだけ〕。ここでも、2人の笑顔が見られる(3枚目の写真)。小屋に戻ったアーロンに、トリスタンの母は、「気を付けて欲しいの。あの子には、あなたを、パパと混同してもらいたくないわ」と言う。「何が言いたい?」。「彼にはパパがあり、あなたもいる。そこをはっきりさせないと」。「君は、そう言うけど、あの子は、誰がパパで、誰がパパでないか、よくわきまえてるよ。だが、2年も経つのに、それでいいのかなって時々思う。パパが2人で、何が悪い?」。「ダメよ、あの子のパパは1人だけ。とてもいいパパよ」。これでは、アーロンも浮かばれない。彼女は、なぜ、2年前に離婚した亭主を こんなに大事にするのだろう? あと、なぜ、この会話は英語なのだろう〔ドイツの映画だし、字幕はないので、ドイツの観客にはドイツ語の方がいいと思うのだが…〕

“説教” が終わった後、アーロンはチェーンソーを持ち出し、小屋の前の大木の下枝を落とす用意を始める。すると、前の草原で、トリスタンの携帯にかかってきた父親からの電話に、母が代わって出る。「明日の朝、話して。1日に2度も3度もかけるのは止めて。私たちのバカンスなのよ。分かった。バイ、バイ」(1枚目の写真)。電話が終わったので アーロンがスイッチを入れようとするが〔音がすごく大きい〕、モーターがうまく動かない。そこで、仕方なくハンドソーと梯子を使って下枝を切る。すると、そこにトリスタンがやって来て、地面に落ちた長さ1メートル以上ある枝をノコギリで切り始める。危ないと思ったアーロンは作業を止め、「待て待て、手伝ってやる」と言い、梯子を下りる(2枚目の写真、矢印はノコギリ)。アーロンは、枝を梯子に立てかけて切り易くする。しかし、枝といってもかなり太いので、途中でノコギリが動かなくなる。アーロンは抜いて手渡すが、トリスタンはそのノコギリを冗談でアーロンの腕に置く(3枚目の写真)。サイコ映画ではないので、アーロンの腕を切るとは思わないが、2人がにらみ合うシーンは、トリスタンのこれまでの笑顔が “つくりもの” だったことを観客に悟らせる一瞬だ。母の「トリスタン、どこにいるの?」の声で呪縛は解け、トリスタンは立ち去る。

母がトリスタンを呼んだのは、小屋の中で1匹ネズミを見つけたから。母は ガラス瓶と 蓋にする木の板を持ち、トリスタンと一緒になってネズミを追いかける。そして、奇跡的に捕まえると、ガラス瓶に入ったネズミに向かって、「今日は、君」と呼びかける。「いいこと、外に一人でいるのが寂しいからって、勝手に入っちゃダメよ。約束しましょ。ここにいてもいいけど、条件がある。私たちの食べ物に触らないこと。いい?」。そう言うと、如何にもネズミの返事を聞くように、蓋板を斜めにし、聴くようなフリをする(1枚目の写真、矢印はネズミ)。トリスタンは、「何て答えた?」と訊く(2枚目の写真)。「約束を守って、食べ物には触らないって」。「嘘ばっかり」。ネズミの入った瓶をもらったトリスタンは、木のテラスの端に腰掛けると、瓶を傾けてネズミを外に出す(3枚目の写真、矢印はネズミ)。ネズミは、そのまま逃げていく。

夜になり、2人が寝ていると、トリスタンが敷布を持って2人のベッドまでやってくる。母は、「自分のベッドに戻りなさい」と言うが、トリスタンは、「怖いよ」と拒否し、母の横に敷布を置いて横になる。その音で、先に寝ていたアーロンの目が覚め、部屋の臭いに気付く〔よく分からないが、恐らくネズミの残した臭い?〕。アーロンは、起き上がると、引き出しからネズミ捕りを2個取り出す〔ネズミが可哀想だと思ったトリスタンが 隠してしまった〕。アーロンは、そのこととは関係なく、トリスタンの母を起こして話し合う。「あなたのために、ジョージと別れたのよ〔ジョージは英語名なので前夫のこと/前に「2年も経つ」と言っていたので、2人は離婚後に遭ったのではなく、アーロンが離婚の原因を作ったことになる。2年もトリスタンといたとすれば、未だに彼と馴染めていないのは不自然だが…〕あなたなら、他の誰よりトリスタンに良かれと思って」。「僕ならか…」。「そのことは、何度も話し合ったでしょ。どうしたらいいか分からない。これは問題よ」。「僕は、時々、トリスタンがとっても可愛くて、ホントの息子じゃないって忘れてしまいそうになる」(1枚目の写真)「だけど、別の時には、一緒にいることが息苦しくて、どこかに行って欲しいと思うこともある〔また、英語〕。このあと、2人はしばらく抱き合う。だから、トリスタンが目覚めた時には、2人はまだねむっていた。彼は母の横に寝ていたので、まだ眠っている母の乱れた髪を取って顔を出そうとする(2枚目の写真、矢印はアーロンにつかまれた髪)。母の顔が全部見えるようになると、母の髪でアーロンの顔をくすぐる。びっくりした拍子にマットレスの具合がおかしくなり、怒ったアーロンはトリスタンをつかもうとするが、母は、そんなトリスタンを守る〔悪いことをした時にちゃんと注意しないから、トリスタンの心が捻じ曲がる〕。アーロンはそんな母子に疑問を感じ、小屋の外に出て考える。トリスタンは、母に抱かれたまま、「ママは、アーロンが嫌いになった?」と訊く(3枚目の写真)。「いいえ。誰にでも、悲しくなることはあるの」。「きっと、また パパが好きになったんだ」。「違うわ」。「パパが、痛いことしたの?」。「いいえ」。「もし、そうじゃないなら、なぜ別れたの?」。母は、それには答えず、「朝食、欲しい?」と話題を変える〔こうした事なかれ主義の対応が、トリスタンの反アーロン感情を助長する〕

アーロンが、丸1日かけて薪用の木を作っていると、夕方が近づいたところで、母が、「トリスタンが、お話を読んで欲しがってる」と頼む。ところが、いざ、暗くなって、アーロンがトリスタンのベッドに行き、絵本を開くと、トリスタンは、「どうして、僕に読んで聞かせるの?」「ママが頼んだからだろ?」と生意気なことを言う(1枚目の写真)。アーロンは、バカらしくなって絵本を閉じ、立ち上がる。すると、トリスタンは、「お話は、どうなったの?」と訊く。「聞きたくないんだろ?」。「違うよ」。そこで、仕方なく、アーロンは絵本を読み始める〔こうした、“取り入ろう” という思いが、トリスタンを助長し、“何をしても叱られない” と思い込むようになる→後で、最悪の事態に〕。トリスタンが眠り、アーロンが、「寝てるか?」と訊いても返事がない。しかし、これも、“振り” で、アーロンが下に降りて行くと、ベッドから起き上がる。そして、アーロンと母が仲良く木のテラスで雰囲気を楽しんでいると、「ママ」と呼んで邪魔をする。「なあに?」。返事がないので、アーロンが、「おいで」と呼ぶ。2人を引き離したいトリスタンは、執拗に「ママ」と呼ぶ。次のシーンでは、トリスタンが、母の肩を揉んでいる〔何のために呼んだのだろう?〕。ある程度揉むと、「よくなった?」と珍しくフランス語で尋ねる。母が、トリスタンを寝かしつけていると、アーロンが弾くオルガンの音が下から聞こえてくる。2人は、屋根裏の階段の開口部に並んで寝て、音楽を聴く(2枚目の写真)。2人が本当に寝てしまうと、アーロンは、母の右側に寄り添って寝ているトリスタンをそっと抱き上げ、自分と母の間に寝かせる(3枚目の写真)〔“よき父” になりたいと思うアーロンの想いが、にじみ出ている〕

日の出前、目が覚めたアーロンが、トリスタンを見ていると、悪夢を見ていたトリスタンも目が覚める。「何の夢だった?」。「怪物」。「何してた?」。「追いかけられた」。「何かできることは?」。「話して?」。「誰に?」。「巨人に」。「やってみよう」。「巨人は、知ってるかな?」。「何を?」。「あんたが、パパじゃないって」。アーロンは、この話題に弱い。だから、「急げば、日の出に間に合うぞ」(1枚目の写真)と言う。アーロンは、メモを残すと、最初からトリスタンを背負ってトレ・チーメを目指す。そして、空が赤くなりかけた頃、3峰が見えてくる(2枚目の写真)。前に来た場所まで来ると、トリスタンに毛布を被せ、岩峰の上部から赤みがかった黄色が拡がっていくのを見る(3枚目の写真)。トリスタンがそれを喜んでいるようには見えない。

アーロンが疲れて眠ってしまうと、トリスタンは登山靴の紐を外し始める(1枚目の写真、矢印は抜いた紐)。次の場面では、トリスタンがつまらなさそうに小石を投げていると、アーロンがやって来て、前に立ち、「変だな、今日は靴が緩い。どうなったか知ってるか?」と曖昧に問い質す。「ううん」(2枚目の写真)。アーロンは、最初からそう言えばいいのに、ようやく、「靴紐を返してくれないか?」とバカ丁寧に頼む。だから、アーロンも、バカにして、「どうして? 持ってないよ」と生意気に答える。そして、また石を投げる。「君のことが、時々信じられなくなる」。「なぜ?」。アーロンは、「『なぜ』だと?」と言うと、トリスタンの体を頭の上に持ち上げると、「ネズミ捕りを例にあげよう」と言う。「何があったの?」〔トリスタンが引き出しに隠した〕 。「それから、ノコギリだ」〔トリスタンがアーロンの腕を切ろうとした〕。都合が悪くなったトリスタンは、「痛いよ」と被害者を装う(3枚目の写真)。「降ろして」。「靴紐を返せ」。トリスタンは足でアーロンの胸を蹴り、アーロンが痛くて手を離した隙に、逃げて行く。

アーロンが見ていると、トリスタンは岩の横に座り、手前にナップサックを置く。2人は長期戦の構えだ(1枚目の写真、2つの矢印は2人の当初配置。トリスタンの左に、空色のナップサックが置かれている)。アーロンの座った位置からは、ナップサックは見えるが、トリスタンは岩陰になって見えない。だから、このナップサックが “目くらまし” となり、アーロンはトリスタンはすぐそばにいると思い込んでしまう〔アーロンは、トリスタンの姿を確認できる場所に移動すべきだった〕。座っていることに飽きたトリスタンは、その場からどんどん離れて行く。途中で、誰かが落としていったチョコレートかキャラメルにアリが集まっているのを見つけ、拾い上げる(2枚目の写真、矢印の先の黒いものはアリ)。そのうちに、待ちくたびれたアーロンがナップサックの場所まで行くと、その裏にいると思っていたトリスタンがいない。そこで、「トリスタン!」と呼ぶが返事はない。「出てこいよ! 友達だろ! もう戻らないと!」と叫ぶが、その頃には、トリスタンは、叫び声がかろうじて聞こえる場所まで離れていた。トリスタンは、最初は、無視して返事をしなかったが、しばらくすると、怖くなったのか、ようやく、「アーロン!」と呼ぶ(3枚目の写真、矢印)。声を聞いたアーロンは、「そこにいろ! 捜しに行く!」と叫ぶ。

アーロンが岩場を歩いていた時、靴紐がないせいで 巧く踏みこたえられず、崖で滑ってぶら下がることになるが、つかんだ場所が岩ではなく草だったため、剥がれ落ち、それと同時にアーロンも崖から落ちる。たいした崖ではなかったが、落ちた所が石の上だったため、左脚を折ってしまう。シャツを裂いて足を縛るが、とても歩ける状態ではない。そこで、「ここに来い! ここだ!」と叫ぶ。雲が下がり急速に視界が悪くなる。画面は白一色になる。その中から、奇跡的にトリスタンが現れ、アーロンに抱きしめられる(1枚目の写真)。トリスタンは、アーロンに言われて焚火に使える枝を集めてくる。火が起きると、今度は、大きな枝を無理やり引きずってきて、焚火の前で枝を折る(2枚目の写真)。辺りが真っ暗になると、トリスタンは、「どうして、そんなに力が強いの?」と訊く。「君より、体が大きいだけだ」。「ママは、なぜ、パパより あんたの方が好きなの?」。「君の鼻は、どんどん長くなるな」〔ピノキオをもじった?〕。「なぜ、パパより力が強いの?」。「パパが若い頃、スポーツをしなかったからだろう」。2人とも、キックボクシングをしていたと分かると、「あんた、やり過ぎだよ。尋常じゃない」。その後も、とりとめのない会話が続く。やがて、トリスタンは眠ってしまう。同じ頃、トリスタンの母からの緊急通報を受けた警察が、濃い雲の中を懐中電灯で照らしながら捜索している(4枚目の写真)。

翌朝、トリスタンの方が、先に目が覚める。彼は、髪の毛を触るのが好きなようで、ここではアーロンの巻き毛を引っ張り(1枚目の写真)、それが目的だったのかもしれないが、起こしてしまう。トリスタンは、「アーロン、ママを一人にするって約束してよ」と言う。アーロンは返事をしない(2枚目の写真)。アーロンから離れたトリスタンは、濃い雲の中で振り返り、「約束する?」と執拗に繰り返す。アーロンは、呆れたような顔でトリスタンの方を見つめるだけで、相変わらず黙ったままだ。しばらくすると、ヘリの音が聞こえてくる。トリスタンは、「ママ!」と叫んで、走り出す。アーロンは、トリスタンを心配し、走り去った方角に這って行く。こんな雲の中をどうやって飛行しているのかと思うと、次の画面で謎が解ける。雲は地表近くと峰の上部にかかっているが、途中は視界が100%確保されていたのだ(3枚目の写真、◯印の中央の白い点がヘリ)。

雪原に出たトリスタンは、音のする方に真っ直ぐ進んでいく。すると、氷の割れる音がして、突然姿が消える(1枚目の写真、矢印はトリスタンの頭。周りは、雪と雲でほぼ真っ白。わずかに黒く見えるのは木)。それを見たアーロンは、トリスタン目指して凍った池の上を這い進む(2枚目の写真、青い矢印はトリスタン、黄色の矢印は折れた脚に巻いた布)〔折れたのは左脚だったが、ここでは右脚に変わっている〕。そして、何とか、氷が割れた場所まで辿り着く。トリスタンは、映画の冒頭で、プールでいろいろなことを教えてもらったので、寒いのを別にすれば、何とか浮かんでいられる。アーロンは、トリスタンに向かって手を伸ばす(3枚目の写真)。「こっちに来い」「手を取れ」。

しかし、アーロンが手をつかんだ瞬間、重さに耐えかねた氷が割れ、アーロンは水中に引き込まれる。ようやく水面に顔を出したところは、映画の冒頭での2人のツーショットによく似ている(1枚目の写真)。アーロンが、何とかトリスタンの体を確保すると、トリスタンは、「約束する?」と、先ほどの話を蒸し返す。今度も、アーロンは何も答えず、トリスタンの体を氷の上に押し上げる(2枚目の写真)。トリスタンは、そのまま這って去って行く。凍った池から抜け出ると、遠くに捜索隊の姿が見える。トリスタンは「ママ!」と叫び、黄色のレインコートを着た母に飛びつく(3枚目の写真)。「良かった、坊や!」。母が、「アーロンがどこにいるか、知ってる?」と訊くと、トリスタンは「No」と答える〔トリスタンは、アーロンが見つからなければ、邪魔者はいなくなり、パパと一緒に暮らせると思っている〕

母は、トリスタンを抱きながら、「アーロン!」と叫びながら捜し回る。一方、割れた氷の穴に這い上がることは不可能だと悟ったアーロンは、氷の下から頭突きで飛び出そうと考え、氷の薄そうな場所を捜して水中を泳ぐ(1枚目の写真、ここでは左脚に布を巻いている)。そして、何度も氷に頭突きを繰り返し、遂に氷を破ることに成功する(2枚目の写真)。最後のシーンは意味不明。母に抱かれていたトリスタンが、急に下に降りると、走って行く(3枚目の写真、矢印)。誰に向かって? 父ジョージでないことは確か。遭難の可能性は前日の夕方しか分からない。ロンドンからインスブルック、ヴェネツイアに飛行機で飛ぼうとしても、フライトがない。だから、相手はアーロンしかない。それなら、なぜ、嬉しそうに走って行ったのか? 以前に、3回も、母との離別を求めたトリスタンが、嬉しいはずがない。だから、「No」と言って見殺しにしようとした事実を少しでも軽くするため、自ら積極的に助けに行こうとする “振り” を見せたとしか考えられない。

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